企業の間で急速に広がる「年賀状じまい」。
かつては年始の定番だった年賀状ですが、郵便料金の値上げやSDGsへの取り組み、そしてデジタル化の進展を背景に、多くの企業が新しい挨拶の形へと移行しています。
本記事では、企業が年賀状じまいを選ぶ理由から、実際の動向、そして取引先や顧客に失礼なく伝えるための具体的な文例までを網羅。
さらに、年賀状の代替となるメール・Web・SNS・動画などの活用方法や、円滑に進めるための社内外調整のポイントも解説します。
「どう伝えれば良いか迷っている」「例文をそのまま使いたい」という方にも役立つ、フルバージョン文例を多数掲載。
単なる慣習の廃止ではなく、企業の信頼を深める新しいコミュニケーションの形として、年賀状じまいを前向きに取り入れていきましょう。
企業で進む「年賀状じまい」とは?
ここでは、近年注目されている「年賀状じまい」が企業にとってどのような意味を持つのかを整理していきます。
まずは言葉の定義を明確にし、なぜ今これほど広がっているのか、その背景を見ていきましょう。
年賀状じまいの意味と定義
「年賀状じまい」とは、従来の年賀状による新年の挨拶をやめ、今後は別の形で気持ちを伝えていくことを表します。
個人の間では「高齢や環境配慮を理由にやめる」というケースが多いですが、企業の場合は経営判断として挨拶スタイルを見直す取り組みという側面が強いです。
つまり単なる節約ではなく、時代に合わせたコミュニケーション手段の最適化だといえます。
用語 | 意味 |
---|---|
年賀状じまい | 年賀状のやりとりを終了し、別の形で新年の挨拶を行うこと |
年賀状廃止 | 組織として年賀状を完全にやめる方針 |
年賀状辞退 | 自社宛の年賀状も遠慮してほしい旨を伝えること |
企業が年賀状じまいに踏み切る背景
年賀状じまいの流れは、郵便料金の値上げや業務効率化の必要性、そしてデジタル化の加速など、複数の要因が絡み合って進んでいます。
特に2025年以降は、年賀はがき1枚あたり85円に値上がりすることから、数千枚単位で発送していた企業にとっては大きなコスト負担となりました。
また、SDGsの観点から紙資源の削減を進める企業も多く、年賀状じまいは「環境にも優しい企業活動」として社外にアピールできるポイントにもなっています。
さらに、コロナ禍以降のオンライン化の進展により、メールやSNSなど即時性のあるツールでの挨拶が主流になりつつあります。
年賀状じまいは、伝統をやめることではなく、新しい関係づくりの始まりと考えると、企業にとっても前向きな変化といえるでしょう。
企業が年賀状じまいを選ぶ理由
ここでは、なぜ多くの企業が「年賀状じまい」に踏み切るのか、その理由を具体的に整理します。
単なるコスト削減だけでなく、環境配慮や時代の価値観の変化など、多角的な要因が関わっています。
コスト削減と効率化の観点
年賀状は1枚あたり85円(2025年時点)ですが、これに印刷費用や人件費が加わると、数千枚単位で発送する企業では年間数十万円〜数百万円規模の出費になることもあります。
また、宛名印刷や発送準備などの事務作業も大きな負担です。
年賀状じまいをすることで、コストと人的リソースをより本質的な業務に回せるようになります。
費用項目 | 年間コスト(目安) |
---|---|
年賀はがき代 | 3,000枚 × 85円 = 約25.5万円 |
印刷・デザイン費 | 約10〜30万円 |
人件費(宛名・発送) | 約20万円以上 |
SDGs・環境への配慮
紙資源の削減や廃棄物の削減は、企業の社会的責任(CSR)の一環として重要になっています。
年賀状じまいは「環境に優しい企業」であることを示す象徴的な取り組みとも言えます。
近年は株主や取引先からもサステナビリティの姿勢が注目されているため、年賀状じまいはイメージ向上につながるケースもあります。
デジタル化・価値観の変化
ビジネスの場では、メールやSNSでの挨拶が一般化しています。
即時性があり、受け手も確認しやすいことから「むしろ効率的で合理的」という評価も広がっています。
さらに、コロナ禍をきっかけに「形だけの年賀状よりも、必要な時に心を込めたメッセージを伝える方が良い」という考え方が強まりました。
儀礼よりも本質的なコミュニケーションを重視する風潮が、企業の年賀状じまいを後押ししているのです。
年賀状じまいを実施した企業の動向
ここでは、実際に年賀状じまいを進めている企業の割合や、その動向について見ていきます。
統計データを整理すると、年賀状じまいは一過性の流行ではなく、着実に広がっていることが分かります。
実施企業の割合と時期の推移
最新の調査では、企業の49.4%がすでに年賀状を終了しており、さらに「2025年からやめる」と回答した企業は17.0%、「2026年から」と答えた企業は8.0%でした。
つまり2025年以降、年賀状を出す企業は全体の3社に1社程度まで減少すると予想されます。
終了時期 | 割合 |
---|---|
2020年以前 | 9.5% |
2021年〜2023年 | 13.4% |
2024年 | 9.6% |
2025年 | 17.0% |
2026年以降 | 8.0% |
この流れは、2020年以降のコロナ禍を契機に加速したと考えられます。
「儀礼的な挨拶より、実務的で効率的な関係構築を重視する」という企業姿勢が浸透しているのです。
続ける企業の事情と課題
一方で、約26.4%の企業は「年賀状を続ける」と回答しています。
その理由としては以下のようなものが挙げられます。
- 伝統文化の継承や企業イメージ維持のため
- ご年配の取引先への配慮
- 年始の特別な節目としての価値を大切にしている
ただし、こうした企業も「いつまで続けるか」という課題を抱えています。
特に、若い世代の社員からは「業務負担が大きい」「デジタルで十分ではないか」といった声も強くなっており、社内調整が必要な状況です。
継続企業の多くも、近い将来はデジタル移行を検討せざるを得ないと考えられます。
企業向け・年賀状じまいの伝え方
ここでは、実際に年賀状じまいを取引先や顧客へ伝えるときに役立つ文例を紹介します。
企業としての誠意を伝えるためには、理由を簡潔に述べつつ、これまでの感謝と今後のお付き合いを大切にする姿勢を明確にすることが大切です。
取引先に伝える際のマナー
取引先に対しては、突然の廃止が不意打ちにならないよう、事前に伝えるのが望ましいです。
また、理由を「コスト削減」や「効率化」だけで伝えると角が立つ場合があるため、環境配慮やデジタル化への対応を理由に挙げるのが無難です。
失礼にならない文例集(取引先・顧客・一般向け)
以下は実際にそのまま使えるフルバージョンの例文です。
シーン | フルバージョン例文 |
---|---|
取引先へのお知らせ | 謹啓 時下ますますご清栄のこととお慶び申し上げます。 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。 さて、このたび弊社では、昨今の社会情勢および環境保護の観点から、 これまで年始のご挨拶にお届けしておりました年賀状を控えさせていただくことといたしました。 何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。 今後とも変わらぬご厚誼を賜りますよう、よろしくお願い申し上げます。 敬具 |
顧客へのお知らせ | ○○様 あけましておめでとうございます。 旧年中は大変お世話になり、心より御礼申し上げます。 誠に勝手ながら、本年をもちまして年賀状での新年のご挨拶を控えさせていただくこととなりました。 今後はメールやホームページを通じてご挨拶をさせていただきたく存じます。 何卒ご理解くださいますようお願い申し上げますとともに、 引き続き変わらぬご愛顧をお願い申し上げます。 |
社外・一般向け(シンプル型) | 平素より格別のご厚情を賜り、厚く御礼申し上げます。 このたび弊社では、業務効率化および環境保護の観点から、 来年度より年賀状によるご挨拶を控えさせていただくこととなりました。 皆様には何卒ご理解を賜りますようお願い申し上げます。 今後とも変わらぬご厚情をお願い申し上げます。 |
コスト削減・環境配慮を理由とする文例
より具体的に理由を述べたい場合は、以下のような文例が適しています。
【フルバージョン例文】
謹啓 師走の候 ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、このたび弊社は、環境保護への取り組みおよび経費削減の観点から、
これまで年始のご挨拶としてお届けしておりました年賀状を、来年度より控えさせていただくこととなりました。
これまで賜りましたご厚情に心より感謝申し上げますとともに、
今後とも変わらぬご厚誼を賜りますようお願い申し上げます。
謹言
ポイントは「理由を伝える+今後の関係性を大切にする姿勢を示す」ことです。
年賀状じまい後の新しい挨拶スタイル
年賀状じまいをしたからといって、新年の挨拶そのものをやめるわけではありません。
むしろ、デジタルツールを活用することで、より柔軟で魅力的なコミュニケーションが可能になります。
メールやWebでの新年挨拶の工夫
企業の多くは、年賀状じまいの後にメールやWebサイトを活用しています。
シンプルな新年の挨拶をメールで送ったり、会社ホームページに代表メッセージを掲載することで十分な効果があります。
媒体 | 特徴 | 活用例 |
---|---|---|
メール | 即時性・個別対応可能 | 顧客ごとに名前を入れた挨拶メールを配信 |
Webサイト | 広く一斉に発信できる | トップページに新年の代表挨拶を掲載 |
ニュースレター | 定期配信で関係維持 | 年始号で特集記事や感謝の言葉を掲載 |
SNSや動画を活用した最新事例
近年では、SNSや動画による挨拶も注目されています。
動画で代表者が新年の挨拶を述べる形式は、紙の年賀状よりも臨場感と温かみがあり、受け手に強い印象を与えます。
特にSNSでは双方向のやり取りが可能なため、コメントや「いいね」を通じて顧客との距離が縮まる効果も期待できます。
【SNS投稿例文】
新年あけましておめでとうございます。
昨年は多くのご支援を賜り、心より御礼申し上げます。
本年も皆さまにとって実り多き一年となりますようお祈り申し上げます。
弊社は今年から年賀状の送付を控え、SNSを通じてご挨拶をさせていただきます。
引き続きどうぞよろしくお願いいたします。
社内外でのコミュニケーション改善例
年賀状じまいは、社外への対応だけでなく、社内のコミュニケーション改善にもつながります。
- 社内SNSで新年の目標やメッセージを共有する
- 社内報に経営層からの挨拶を掲載する
- 取引先向けに動画メッセージを配信する
- メールで個別に「昨年はありがとうございました」と感謝を伝える
このように、デジタル化を前向きに取り入れることで、年賀状じまいを単なる「やめる宣言」ではなく、新しい交流スタイルへの進化と位置付けることができます。
円滑に年賀状じまいを進めるポイント
年賀状じまいをスムーズに進めるためには、社内外の調整と適切な伝え方が重要です。
ここでは、失礼のない進め方や企業ブランドを守るための工夫を解説します。
社内調整と通知のタイミング
まず必要なのは、社内での合意形成です。
特に営業部門や役員層は「伝統を守りたい」と考える場合もあるため、理由を明確に示して理解を得る必要があります。
ステップ | 具体的な対応 |
---|---|
方針決定 | 経営会議などで正式に決定する |
社内周知 | 全社員にメールや社内報で通知 |
社外通知 | 前年末〜新年にかけて取引先へお知らせ |
通知のタイミングは前年末〜新年がベストです。
「事前にお知らせするか」「最後の年賀状に明記するか」の2つの方法がありますが、どちらも誠意を持った伝え方が求められます。
高齢の取引先や顧客への配慮
ご高齢の取引先や伝統を重視する顧客には、突然の廃止が驚きや不快感を与えることがあります。
そのため、丁寧な表現で感謝を強調しつつ、やむを得ない事情であることを伝えると良いでしょう。
【配慮型の例文】
拝啓 時下ますますご清栄のこととお喜び申し上げます。
平素は格別のご厚情を賜り、心より御礼申し上げます。
さて、弊社では近年の社会状況や環境への配慮から、
これまで年始にお届けしておりました年賀状を控えさせていただくことといたしました。
誠に勝手ではございますが、事情をご理解賜りますとともに、
今後も変わらぬご交誼をお願い申し上げます。
敬具
企業ブランドを高める工夫
年賀状じまいは「伝統をやめるネガティブな行為」と捉えられがちですが、見方を変えれば企業ブランドを差別化できるチャンスです。
例えば「環境配慮企業としての姿勢を示す」「デジタル化の先進的な取り組みを強調する」など、自社の強みに結びつけて発信することができます。
- 公式サイトで「年賀状廃止のお知らせ」を掲載し、理由を丁寧に説明
- 代替手段としてSNSやメールマガジンで積極的に情報発信
- 「未来志向のコミュニケーション」と位置づけて広報に活用
このように工夫すれば、単なる慣習の廃止ではなく、
「新しい企業の姿勢を示す前向きな取り組み」として受け止めてもらうことができます。
まとめ〜年賀状じまいは感謝を伝える新しい形へ
ここまで、企業における年賀状じまいの背景や理由、具体的な文例、そして代替手段となるデジタル挨拶について見てきました。
重要なのは、年賀状をやめること自体ではなく、その過程で「感謝と敬意をどう伝えるか」という点です。
紙の年賀状は長年の文化でしたが、コストや環境負荷、そしてデジタル化の流れの中で、多くの企業が新しい方法へ移行しています。
例えばメールやWebサイト、SNS、動画などを活用することで、より柔軟で効果的な挨拶が可能になりました。
年賀状じまい=人間関係の終わりではありません。
むしろ、「これまで以上にスピーディで、心のこもったメッセージを届ける手段」へと進化するきっかけです。
企業にとって年賀状じまいは、伝統を守りつつも未来志向で変化に適応する姿勢を示すものです。
本記事で紹介したフルバージョン例文や新しい挨拶スタイルを参考に、自社らしい「感謝の伝え方」を設計してみてください。
年賀状じまいは、つながりを絶つものではなく、より豊かな関係を築くための新しいスタートラインです。
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